心斎橋に一棟丸ごとネコビルがオープン


看板をよく見ないと猫に関するビルだとは気付かないかもしれない。外からカウンターが見え、仕事帰りに立ち寄ってみたくなる雰囲気だった
猫つきシェアハウスや、猫のいるレンタルオフィスなど…。猫と暮らしたり、猫と同じ空間で仕事ができたりと、猫に接することができる住まいや施設が人気を集めている。これまでHOME'S PRESSでも、度々そうした施設を紹介してきた。今回は大阪に登場した5階建ての"ビル丸ごと"が猫に関連した複合施設、「ネコビル」を紹介しよう。

ネコビルは、2016年5月22日に心斎橋のヨーロッパ通りと呼ばれる一等地にオープンした。一見すると、猫関連の複合施設とは気づかないないほど、お洒落な外観である。

オープン以降、注目を集めており、取材に訪れたこの日もオープン前から数名の人が並んでいた。

ネコビルの中はどうなっているのだろうか?
そして、ネコビルがオープンした背景について、お話を伺った。

猫がなる木!猫がのびのび遊ぶ猫カフェ

1階の「SOMETHIN'NEW YORK」は、コーヒーやスイーツなどが提供され、夜はビールなどのお酒も飲めるカフェバー。昼時はランチの提供もしている。
2階の「ネコ市ネコ座」は、全国の猫雑貨のクリエイターが作成した商品を販売するショップになっている。
3階の猫カフェ、「ネコリパブリック」の中央には、大きなツリーが。そのツリーの周囲に腰を掛けるスペースがあり、猫に囲まれて過ごすことが出来る。3階と4階のスペースを利用する際は、寝ている猫を無理に起こしたり、追いかけたりしてはいけないなどの注意事項の同意が必要となる。

(画像右上)1階のカフェバー。猫ラベルのワインや世界のビールなど、夜はお酒も楽しめる。(画像右下)2階は猫雑貨を販売する「ネコ市ネコ座」。(画像左)3階の猫カフェ。キャットステップがたくさん設置されていた

猫がいる空間で読書、昼寝も…

4階の「CAT & BED & BOOK」は、昼寝をしたり、本を読みながら猫と触れ合えるスペースになっている。大きな棚には猫に関する本などが並ぶ。本棚とベッドスペースを繋ぐようにキャットウォークがあり、猫は自由に行き来ができるのだ。もしかしたら、猫とお昼寝もできるかもしれない。
5階は猫と仕事ができるネコワーキングスペース。入居者の募集はまだこれからだが、すでに数件の問合せが入っているとのこと。屋上ではイベントなどの開催も検討しているという。

ネコビルにいる猫は25匹。全て、地域の保護猫団体などから受け入れた「保護猫」だ。
ネコビルはオープン以降、注目を集めていると前述したが、実はオープン前から多くの人から見守られ、支援されていた。ネコビルの改修費用などを募ったクラウドファンディングでは、1,430人のサポーターにより18,496,170円の支援が集まった。
当初目標としていたオープンに必要な最低限の改修費用1,000万円を達成し、そしてさらに、5階や屋上の改修費も含めた目標額である1,800万円も達成したのだ。

ネコノミクスとも言われる猫ブームも後押ししたのかもしれないが、クラウドファンディングでサポートした人たちは、みな「保護猫のための施設」であることに共感し協力したいと思ったのだろう。
ネコビルの店長である、株式会社ネコリパブリックの和田亜弥香さんに、ネコビルのオープンに至るまでのお話を伺った。

4階の「CAT & BED & BOOK」。高いところから見下ろすのが好きな猫のために設けられたキャットウォークがベッドをつなぐ。猫と過ごしたくても、なかなかそばに寄ってこないのでは?と思ったが、常連のお客さんには近寄って一緒に寝ることもあるのだとか。ネコビルの3階と4階は、自由に猫が行き来できるようになっている。1~2階には猫がいないので、猫と触れ合いたい人は3階・4階への入場が必要となる

空前の猫ブームの陰にある、殺処分される猫たち

「ネコリパブリックは、2022年2月22日までに日本の行政による猫の殺処分をゼロにすることを目標に、猫カフェの運営や猫雑貨の販売などをしています。一部の人のボランティアで成り立つ保護猫施設ではなく、事業として成り立つ"自走型保護猫カフェ"です。保護猫と聞くと、暗いイメージに取られてしまうことが多いのですが、より多くの人に保護猫と触れ合って、ペットショップ以外の猫との出合い方を知ってほしい。そのためには、ふらっと立ち寄りたくなるような、明るくてお洒落な店舗である必要があります。以前、心斎橋にあった店舗は3階にあり、通りすがりの人の目につきにくかったことと、2年の契約終了が近づいていたこともあり、今回ネコビルに移転をしました」

一般的に猫に関連する商業利用が可能な物件というのは多くはなく、さらに一棟丸ごとのビルとなると珍しいのだが、ネコリパブリックの活動を知る人の紹介により出会った不動産会社からの提案で、とんとん拍子に入居が決まったそうだ。もともとはケーキ屋さんであった店舗が猫のための施設として改修され、ネコビルとして生まれ変わったのだ。

ネコリパブリックが目指す殺処分ゼロだが、猫ブームの影には、悲しい現実がある。
2012年度には、全国の自治体で17万2,360匹もの犬と猫が殺処分された。(TOKYO ZEROより)殺処分は平日に行われており、平均すると平日に毎日約700匹の犬や猫が殺処分されていることになる。だが一方で、犬だけで毎日約1,600匹が販売されているのだ。
なお、動物福祉の先進国であるドイツでは、捨てられた犬や猫たちが新しい飼い主と出会う民間のシェルター施設「ティアハイム」がある。日本より保護された動物を飼う文化が根付いていると言える。

1階で販売されていた猫好きのための新聞「ネコリペーパー」。猫カフェなどの利用料金や猫雑貨の売上の一部は、猫の保護にかかる費用などにあてられる

猫を家族に迎えるとしたら…ペットショップ以外の選択肢

ネコリパブリックで預かる保護猫は、生後7か月以降の成猫。ペットショップの子猫の可愛さに魅かれる人も多いだろうが、大人の猫を飼うこともメリットが多い。どんな性格なのかはスタッフの人が把握しているし、病気にもなりにくい。猫を初めて飼う人や、すでに一緒に猫と住んでいる人の複数飼いにも向いている。
猫の譲渡を希望する人は審査やトライアルを経て、猫を家族に迎え入れることも可能だ。譲渡について和田さんは、
「猫とその方との相性を見るため、どんな猫と暮らしたいのかの希望を聞いたり、猫に対する印象を聞いたりしています。里親希望の方には、一度だけ来ても猫の性格が分からないと思いますので、時間帯を変えて何度か来てもらうようにお話しています。面談、トライアルを経て正式に譲渡となります。一生を共に暮らすことを念頭に、飼い主になる方にじっくりと考えてもらったうえで譲渡をしています」と話す。

ネコリパブリックは、各都道府県に最低1店舗の開設を目指し、今後も次の店舗のオープンを控えているそうだ。自社運営だけではなく、FC展開もしており、猫のために何かしたいけれどどうやったらいいか分からない…という人に、店舗運営のノウハウ提供もしている。徐々にではあるが、そういった店舗を通して、保護猫への関心が高まってきていると感じるそうだ。

一棟ビル丸ごとを、保護猫の複合施設としてプロデュースしたことは、これまで猫カフェなどの店舗運営をしてきたネコリパブリックだからこそできたことだと思う。多くのメディアやテレビから取材依頼を受けており、やはりネコビルのインパクトは大きいようだ。

ネコビルが、今後も多くの家族と猫との出会いをつなぐ場となることを期待したい。

ネコリパブリック

ネコリパブリックの保護猫は、提携しているボランティア団体などから受け入れており、一般の「野良猫を拾ったからなんとかしてほしい」などの保護の依頼は引き受けていない。ひとりひとりが責任を持って猫と向き合うことが必要なのだ