<span itemprop="headline">「愛する国だから斬る」在住40年R・マーフィ氏「日本呪縛の構図」</span>

「愛する国だから斬る」在住40年R・マーフィ氏「日本呪縛の構図」を刊行

（筑波大大学院教授）

東京新聞

骨太の日本論だ。米国出身で四十年近くを日本で過ごし、現在は筑波大の社会人大学院で国際金融を教えるリチャード・ターガート・マーフィーさん（６３）が昨年十二月、『日本　呪縛の構図』（早川書房）を刊行した。この春の退官と離日を前に、集大成ともいえる上下巻の大著で、副題のとおり「この国の過去、現在、そして未来」を描ききった。日本の抱えるリスクをずばり指摘する筆の鋭さに感銘を受け、東京・茗荷谷（みょうがだに）の筑波大東京キャンパスを訪ねた。

　これまでも海外の日本研究者による日本論は、日本人がなかば自覚しながらも目をそらしてきた「不都合な真実」を糾弾してきた。本書もその系譜に連なる。「アウトサイダー（外部の人）だからこそ気づけることがある。魚が水に気づかないのと同じです」。マーフィーさんは日本語と英語を織り交ぜ、そう語る。

　投資銀行での勤務が長く、専門は経済だが、本書では「歴史」にかなりの紙幅を割いた。特に上巻は一冊を丸々使い、日本史を丁寧にひもといた。現代日本がとらわれている「呪縛」について知るには、長い時間をかけて醸成された＜きわめて独自性の高い国民文化＞を理解する必要があるとの考えに基づいている。

　歴史への省察から導き出された日本の肖像は、耳に痛くも興味深い。例えば、江戸時代に重視された＜どんな命令にも疑問を抱かずに規律正しく従う＞という武士の倫理は、現代の日本人の＜最もあからさまな矛盾でさえ大騒ぎせずに受け入れる＞性質と結びついたと主張する。「日本人は怒りをあまり表に出さず、不満があっても『しかたない』と考えがちで、受動的です。安倍晋三首相の政策だって、本当に支持しているのはせいぜい国民の２０％ぐらいではないでしょうか」

　下巻では現代日本への処方箋が示されるが、論旨は明快だ。＜アメリカは本来、日本のことなど気にもかけていない＞と、いずれ米軍が東アジアから撤退する可能性に言及し、対米依存からの脱却を提言する。「過去を見れば、どの国でもクレイジーなリーダーが現れることがある。大統領選の進行を見ていても、いま米国でその危険が高いと感じます。米国が今とは異なる形の国になったとき、日本はどうするのか考えなければいけない」

　その際ネックになるのが、中国や韓国との歴史問題だという。「戦後、日本は自分たちがなぜ誤ったのか忘れようとしました。例えば、終戦までの二十年間を日本の学校では詳しく教えません。中国が毛沢東時代の弾圧の歴史を思い出そうとしない姿勢と同様に、それは危険なことだと思います」。あとがきには、＜過去は決して死なない。それは過ぎ去ってすらいない＞という米作家フォークナーの文章が印象的に引用される。「確かに歴史というのは良いガイドではないかもしれません。でも、ただ一人のガイドなんです」

　高校時代の初来日以来、日本文化の奥深さに魅せられてきた。本書での厳しい指摘は愛情の裏返しでもある。「社会の結束力が強いのは日本の強みですし、国民のこまやかな感情、共感能力なども、私がこの国を好きな理由です。一方で、日本人はもっと文句を言った方がいいと思うこともある。特に政治と経済の問題に関してです」

　その国民性にも、変化の兆しを見て取っている。「昨年、安保法制をめぐってたくさんの人々が抗議やデモをしたのはいいことだと思います。もっと日本人のそういう姿を見たい」

　次作は米国経済がテーマになることから、この春に日本を去る予定という。最後にこう提案する。「もう少し移民を受け入れてはどうでしょう。日本人は欧州の様子を見て『移民は必要ない』という感情が強いが、移民には種類があります。安い労働力という形ではなく、慎重に門戸を開けば、東京や京都、大阪などはアジアのリーディング都市になる可能性がある」。そしてこう付け加え、寂しそうに笑った。「相続税がこれほど厳しくなかったら、私もずっと住みたかった。日本は住むにはいい国ですが、死ぬにはいい国ではないですね」　（樋口薫）

もう仕方ないと言ってる場合ではありませんね。

どんな命令をも受け入れていたのでは世界を巻き込んで滅びます。

「過去は決して死なない

それは過ぎ去ってすらいない」　米作家フォークナー

追記

江戸時代武士の割合は凄く少ないのに儒教精神も叩き込まれました。

江戸幕府の５人組や村八分、おかみに逆らわない基質をいつまでも引きずっています。
日本には国一揆や土一揆、百姓一揆の伝統も有ります。

希望はなくしたくないですね。