警察庁平成27年における交通事故の発生件数」より
10月、11月と高齢のドライバーによる交通死亡事故が相次いで報道されています。
実際に統計上、高齢ドライバーによる死亡事故の件数は増加しているようです。
2014年に約3600件あった死亡事故のうち、65歳以上の運転者が過失の重い「第1当事者」になったケースは26%だった。約10年間で10ポイント近く増えている。
出典:北海道新聞11月17日社説「高齢ドライバー 事故防ぐ対策急ぎたい」
でも考えてみると、いま日本では急速に高齢化が進んでいます。それとともに65歳以上の人口が増えているわけですから、事故の件数が増えてしまうのはある意味で当然のことです。
では高齢化の影響を除いた場合、高齢ドライバーによる事故は増えているのでしょうか?

高齢ドライバーが起こす交通事故は20代より少ない


平成27年における交通事故の発生状況
上の図は、交通事故を起こした人(第1当事者)の数を年代別に、平成17年から27年まで見たデータです。
ポイントは、年代別の「全件数」ではなく、「その年代の免許者10万人当たり、どのくらい事故を起こしているのか?」を調べていることです。
こうすることで、より正確に「その年代の人が、どのくらい事故を起こしやすいのか」を知ることができます。
※16歳からのデータがあるのは、原付やバイクを含むからです。
まずわかることは、全年代でゆるやかに減っていることです。全体で見ると、10年前のおよそ半分になっています。
では、どの年代がもっとも交通事故を起こしやすいのでしょうか?上から順番に見ていくと、
「16~19歳」が傑出して多く、それに続くのが「20~29歳」。その次に来るのが「80歳以上」です。70代となると、他の年代とほとんど差はありません。
とはいえ、高齢者になるとペーパードライバー(免許を持っているけれど運転しない人)の割合が多くなりそうです。
そこで念のため、年代別の「全件数」のデータも調べてみました。

平成27年における交通事故の発生状況
驚いたことに、20代・40代・30代が多く、80歳以上による交通事故が最も少ないことがわかりました。
少なくとも上記のデータからは、高齢者が若者と比べて特に交通事故を起こしやすいとは言えないのではないか?という気がしてきます。

死亡事故は80歳以上で起こしやすいが、トップではない

では、「死亡事故」に限定した場合はどうなるでしょうか?

警察庁平成27年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について
年代別の免許者10万人当たりの件数を見たデータです。
まずわかることは、死亡事故も大幅に減っているということです。80歳以上に限定すると、10年前の半分程度に減っています。
死亡事故の場合、確かに80歳以上の危険性が高いことがわかります。ただし「16~19歳」も高く、去年のデータでいえばわずかに80歳以上を上回っています。
その次は、20代と70代が同じくらい。とはいえ、その他の年代と比べて、それほど多いとは言えないようです。
上記のデータからは、「16~19歳と80歳以上の運転者は、死亡事故を起こしやすい」のではないか?ということがわかります。
なおせっかくですから、年代ごとの交通死亡事故の「全件数」を見てみます。

警察庁平成27年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況について
全件数でみると、やはり20代や40代が多く、80歳以上が起こす死亡事故は少ないことがわかります。この年代で運転している人が、そもそも少ないのかもしれません。

データをもとに議論する大切さ

いま高齢ドライバーが起こす死亡事故が急増していることが強調され、免許返納や認知機能検査などの重要性が指摘されています。
確かにデータからも、件数としては少ないですが、80歳以上で死亡事故を起こす危険性が高いことが示されています。
今後、高齢化のなかでこの年代のドライバーの絶対数が増えるのは確実ですから、対策が急務なことは間違いありません。
ただ心配なのは、高齢ドライバーへの風当たりが必要以上に強まることです。
例えば下記の報道で「高齢ドライバー」とされているのは、67歳の男性です。
65歳以上の人は「高齢者」とされるので、この男性を「高齢ドライバー」と呼ぶのは間違っていないかもしれません。
でも実際の統計データは、60代のドライバーは20代より交通事故を起こしにくいことを示しています。わざわざ上記の事故を「高齢」と付けて報じることで、誤ったイメージが広がってしまう危険があります。
繰り返しますが、死亡事故を減らすために、増え続ける高齢ドライバー(75歳以上)、とくに認知症に気づかないまま運転してしまう人への対策は有効だと考えられます。
一方で高齢者にとって、自動車の運転が自立した生活の生命線であったり、「誇り」の象徴だったりするケースも少なくありません。
いま対策が急務だからこそ、「なんとなく危なそう」というイメージではなく、データに基づいて「どんな年代の人に、何をすべきか」を冷静に考えていくことこそが大事なのではないでしょうか。
【注】第1当事者とは、事故当事者のうちもっとも過失の重い者のことを言います。