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<span itemprop="headline">安倍政権が集団的自衛権行使に執念を燃やす理由 - 戦後の平和主義を根本的に転換し本気で軍事大国めざす</span>

安倍政権が集団的自衛権行使に執念を燃やす理由 - 戦後の平和主義を根本的に転換し本気で軍事大国めざす

井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者


2014年7月1日 9時57分
渡辺治一橋大学名誉教授に3時間を超えるインタビューを行いました。ごく一部ですが集団的自衛権の問題を深めることができますので紹介します。 (長いけれど流れがわかります)

安倍政権が集団的自衛権行使に執念を燃やす理由

90年代初頭のアメリカは「世界の警察官」として名乗りをあげました。しかしアメリカ一国だけでやるのは嫌だ。アメリカの青年が血を流して、アメリカ企業の権益や自由な市場の秩序を守るのは結構だけれども、その秩序のおかげで日本やドイツの企業が暴れ回るのは許すわけにはいかない。同じように企業がグローバルな市場の下で大儲けをしたいのであれば、それにふさわしい分担をしろと言うわけです。「カネだけでなく汗も血も流せ」という強い声がアメリカから起こってきました。
アメリカは当時、ソ連に代わる最大の敵は日本だと思っていました。日本の多国籍企業の成長がアメリカ企業を脅かしていると感じていたのです。だから、アメリカ企業を脅かす日本企業のために、アメリカの青年が血を流すのは許せないということで、「共に血を流せ」という要求が一層強く、アメリカの企業サイドからも出され、日本の財界もそれに同意しました。
それまで財界は憲法の問題や自衛隊の海外派兵にはあまり関心がありませんでした。財政を出動して公共事業をやってもらって、日本の企業の市場を確保してくれることが政治に対する一番強い要求でしたし、それをかなえる自民党政権の安定が財界にとっての大きな要請だったわけです。しかしその要請の中に、自衛隊の海外派兵とアメリカとの協力が出てくることになってきたのです。
その背景にあるのは、80年代中頃から日本企業が怒濤のように海外に進出を始めたことです。それまでの日本企業は、優秀な労働力を過労死するほどまで自由に使える国内の方が、生産に有利だということで海外進出しませんでした。しかし80年代の円高と経済摩擦の結果、日本企業の怒濤のような海外進出が始まった。さらに冷戦の終焉でそれが一気に爆発的に拡大する中で、日本の財界も「アメリカの言う通りだ」と同調していく。
財界は自衛隊に自分達を守ってもらいたいとは思っていません。自衛隊にそんな力があるとは思っていない。だけどアメリカに守ってもらうには、自衛隊が海外派兵してくれないとアメリカも日本の企業を守ってくれないということで、「国際貢献」という名の下に自衛隊の海外派兵や日米共同作戦を求めるようになりました。
そこで問題になったのが、憲法自衛隊の海外派兵や日米共同軍事行動に対して大きな障害物として立ちはだかっていることです。憲法を変えなければ、アメリカが求める「共に血を流す」という体制はできない、そうすると、自分達をアメリカに守ってもらえない、という問題に日本の財界も立ち至ったわけです。

憲法と運動の力が海外派兵を許さなかった

では、なぜ憲法自衛隊の海外派兵にとっての大きな障害物になったのか? もともと憲法9条があると自前の軍隊を持てませんし、自衛権を発動して戦争することもできません。それで保守勢力は、明文改憲で9条を取っ払うのが一番手っ取り早い、スッキリした形だということで明文改憲を望んでいました。しかし60年安保闘争によって明文改憲は挫折させられてしまった。仕方なく自衛隊を9条の下で維持し、存続しなければいけないという路線に転じざるをえなかったわけです。それが1960年代以降の、日本の基本的な安保軍事政策になっていくわけです。
そこで、そのまま放っておけば憲法の下で自衛隊はもっと大きくなり、活動の自由を得たと思うのですが、安保闘争に立ち上がった日本国民の運動はそれを許さなかった。3つの力が立ちはだかりました。
1つは、安保闘争以来活発化した平和運動の力です。これが、ベトナム侵略戦争に反対し、日本がアメリカの要請にしたがって侵略戦争に加担することに強く反対しました。
2つめは、そうした力を背景に増加した革新政党の国会での追及でした。国会の中で力を発揮するようになった共産党や結党したての公明党が、社会党と一緒になって、政府が、憲法9条の下で自衛隊を拡充したり、日米共同行動を追求しようという試みに反対の論陣をはり、自衛隊違憲性を追及したのです。自衛隊憲法の下でいかにそれに反する様々な日米共同の演習をしているか、また違憲と問われるような編成や武器を持っているかを国会で追及したのです。

「自衛のための必要最小限度の実力」に制約

第3の力は、憲法裁判運動です。当時、自衛隊のミサイル基地建設などに反対して、自衛隊違憲を争う憲法裁判が起こされました。ここでも、自衛隊がいかに憲法9条に違反する軍隊であるかが、さまざまな角度から明らかにされました。
そこで政府は、これら運動の声に対して、自衛隊は9条に違反しないと言うために、自衛隊の活動にさまざまな制約を設けざるをえなくなったのです。
政府は、自衛隊が9条の下で合憲だというために、次のような解釈をとったわけです。「確かに9条は戦争を放棄し、戦力を持たないといっている。しかし憲法に書いてあろうとなかろうと、国が外敵によって侵略され、国土が蹂躙されることに対しては、実力をもってそれを撃退する権利がある。それはどこの国でも持っている。それを固有の自衛権という」「しかし実際に侵略された時に相手を撃退するには、それなりの実力がなければ実現できない。ただし日本は9条で戦力の保持を禁止しているので、それが大きくなって、軍隊として戦力となるようなものは持ってはならない」「けれども、自衛のための必要最小限度の実力は持てる」と。つまり「自衛のための最小限度の実力は、9条が禁止している戦力ではない」と言ったのです。そして、自衛隊はこの「自衛のための必要最小限度の実力」だから自衛隊は9条に違反しないとしたのです。

アメリカの要請「共に血を流せ」に応えられない

自衛隊は海外派兵しない」とする憲法に基づく解釈

それに対して、国会での野党や憲法裁判では、実際の自衛隊は最小限度の実力を超えているじゃないかという追及がなされた。そこで、政府は自衛隊を維持するために、様々な形で自衛隊の諸活動に制約を加えざるを得ませんでした。
その制限のうち最も大きなものの一つが、「自衛隊は海外派兵をしない」というものです。なぜなら、自衛のための最小限度の実力は、敵に攻撃された、急迫不正の攻撃を受けた時にそれを撃退できるものであり、自ら国益を守るために、攻められてもいないのに他国に進出することは許されないからです。
また、自国が攻められた時には反撃する権利は持っているけれど、自国が攻められてもいないのに、自国と同盟を結んだ国が攻められたということをもって戦争に突入する、武力行使を行う、いわゆる集団的自衛権行使は認められないという制約も言明されました。
さらに、たとえ武力行使をしないで後方支援で輸送や食糧調達だけをやる場合も、すべて9条に違反しないとは言えない。たとえ武力行使をしなくても戦場で自衛隊が後方支援をすることもあってはならない。「他国の武力行使と一体となったような活動は一切やってはいけない」という制約も設けられました。このように、がんじがらめの規制が行われたのです。これは、憲法9条のもとで、激しい追及を受けた政府が自衛隊を維持するための不可避の手段でした。
こうした、憲法9条とその解釈の体系の下では、アメリカから言われた「共に血を流せ」という要請に応えることはできません。そこで90年代に入って、改憲の第2の大波、つまり憲法と、憲法に基づく解釈の体系を壊して、自衛隊を海外で米軍と共に血を流せる軍隊にするという課題が浮かび上がったのです。ですから第2の改憲の大波の焦点は、明らかに9条の改憲だったのです。

明文改憲でなく解釈改憲で乗り切る道

この課題に対して、自民党政権は明文改憲による9条廃棄という路線を取らずに、憲法9条をそのままにしてその中味を解釈や立法で変えてしまう解釈改憲で事態を乗り切ろうとしてきました。
改憲案は41も出されたのですが、自民党政権は、国会で改憲案を通して、国民投票で明文改憲を行う路線は取らずに、解釈改憲で行うことを決めたのです。その理由は2つありました。
1つは、アメリカの要求が急すぎて、明文改憲をやっている時間がなかったということです。湾岸戦争から始まって、アメリカは次々と戦争を行い、その度に早く自衛隊を出せと言ってくるわけで、明文改憲を行っているのでは間に合わないのです。
2つめは、明文改憲は政権にとって危険すぎるという点です。明文改憲を行った場合は、アジアの人々だけではなく、日本国民の強烈な反発を受けるため、自民党政権解釈改憲の道を取ったのです。
それを実行に移したのが小泉政権です。2001年の9.11テロ事件に対して、アメリカがアフガンのタリバン政権攻撃に乗り出すと、小泉政権は「国際貢献」を理由に、ついにインド洋海域に自衛隊を派遣しました。そして2003年にイラク戦争が始まると、ついに他国の地上に自衛隊を派兵した。これを、憲法をいじらずに解釈によって強行したわけです。
ここで大きく憲法の状況は変わったのですが、実はこの自衛隊イラク派兵やインド洋海域への派兵は、解釈改憲の限界を持たざるを得ませんでした。
その最大の限界は何かというと、アメリカが最も強く求めていた「共に血を流せ」、つまり自衛隊が海外でアメリカ軍と共同軍事行動をとることができなかったという点です。海外には行ったけれど、当時の解釈改憲は、政府が60年以降再三にわたって作り上げてきた、「自衛隊は海外派兵をしない」「集団的自衛権行使は認められない」「武力行使と一体になった活動はできない」「攻撃するための兵器は持たない」という解釈の体系を壊さないで、それをすり抜ける形で自衛隊を派兵したのです。小泉政権解釈改憲というのは、憲法9条についての解釈を変えてしまうのではなく、政府解釈を維持した上で、それをすり抜ける形でやった。「自衛隊の海外派兵はしない」という原則は変えません、「自衛隊イラクへの出動は、政府が禁止している派兵ではなく派遣です」という形で突破したのです。

「共に血を流せ」とするアメリカの圧力の強まり

では、禁止されている「海外派兵」とは何か。武力行使目的で自衛隊を進駐させた場合は海外派兵だから、これは認められない。しかし復興支援に行く、あるいは今回フィリピンに行っているように、災害復旧支援に行く、そのために自衛隊が海外に出動するのは「派遣」であって「派兵」ではない。これは認められるという形でイラクに派兵したわけです。既存の政府解釈を維持したまま行ったために、サマワに行った自衛隊は1発の銃も撃つことができなかった。その結果、極めて皮肉にも、未だにイラクの国民からは「日本の自衛隊英米多国籍軍とは違う」と言われています。何が違うかというと、彼らは私達イラクの国民を殺さなかった、銃を向けなかったというわけですね。また自衛隊の側からいえば、1人の自衛官も戦闘で死んでいない。そういう意味では極めて特異な形、制限された形でしか行けなかったわけで、それがアメリカにとっては気に食わない。「13年かけてそれだけか?」ということで、解釈改憲の限界を突破して、「共に血を流す軍隊に変われ」と、2003年のイラク派遣の後にブッシュ政権から強く言われるようになりました。

第1次安倍政権の明文改憲政策を

破綻させた九条の会

そこで、解釈改憲の限界を突破するには、明文改憲を行うしかないということで、登場したのが第1次安倍政権です。第1次安倍政権の明文改憲政策は、まさにアメリカの強い圧力と苛立ちを受け止めて、小泉までの政権でできなかった解釈改憲の限界を突破するというものでした。
ところが、この明文改憲はものの見事に失敗します。安保闘争のような数十万の人間が国会を取り囲む状況にはならなかったけれど、九条の会が全国で7,500もつくられる。そしてその九条の会が全国津々浦々で様々な形で集会や9の日行動を行うようになりました。おそらく100万人以上の市民が動いたと思いますが、その中で、大きな変化が生まれた。国民の憲法についての世論が大きく変わってきたのです。九条の会が増えるのと並行して、憲法改正に関する世論に変化が現れました。読売新聞の世論調査でも、九条の会ができた2004年には、65%あった改憲賛成の世論が、九条の会が増えるにしたがって減り、改憲反対の世論が増える中で、2008年4月の世論調査では、改憲賛成42.5%、反対43.1%と逆転してしまったのです。
そうなってくると、明文改憲の最後のハードルである国民投票を行っても、改憲反対の方が賛成よりも多いという状況がつくられてしまうので、明文改憲に打って出られない。こうした国民的な運動がつくりだした状況の中で、第1次安倍政権における明文改憲政策はものの見事に破綻しました。
今回の第2次安倍政権は、そのリベンジとして登場したのです。目標は同じで、集団的自衛権の行使を容認して、軍事行動できなかった自衛隊を、今度こそアメリカ軍と共同の軍事行動を行える軍隊に変える。「戦争をできる軍隊」に自衛隊を変えることが、安倍改憲の大きな目標です。だから国会の中でも安倍首相は、「集団的自衛権の行使を容認する」、ここに焦点を合わせるんだと発言するわけです。
首相が国会で集団的自衛権行使を容認することをめざすと明言したのは、今国会の施政方針演説が初めてです。そういう意味では、安倍政権の目標がそこに設定されていることは非常にはっきりしています。

安倍首相の「積極的平和主義」の狙い

――安倍首相は「積極的平和主義」という言葉も掲げていますが、その狙いは何でしょうか?
今国会の施政方針演説では、「積極的平和主義」を掲げたり、集団的自衛権の行使の容認を、安保法制懇の報告を踏まえて行うと言ったりしていますが、2つ重要なポイントがあります。
1つは、安倍改憲の中心が集団的自衛権にあるということを明言したことです。もう1つは、その改憲を解釈でやると言ったことです。後者は第1次安倍政権とまったく違うところです。この2つを明言したことが重要な点です。

戦後の平和主義を根本的に転換

1つめのポイントから考えてみましょう。
自衛隊が海外で米軍と共同軍事行動を進めることを安倍政権は「積極的平和主義」と表現しています。今まで日本が戦後69年掲げてきた平和主義は、武力で相手国を脅したり、あるいは武力行使国益の確保を図るようなことはしないというものでした。つまり再び侵略の銃を取らないというのが日本の平和主義の最も大きな原則だったわけです。ところが、安倍政権はそうした戦後日本の平和主義を「消極的平和主義」「一国平和主義」だとし、それでは世界の平和は守れないというわけです。日本が侵略の銃を取らないことは実は世界の平和にとってとても大きな意味を持っているのですが、安倍政権はそれを全く認めない。むしろアメリカの要請に基づいて、日本がアメリカと共に血を流す、自由な市場秩序を守るために、イラクやシリアや中国や北朝鮮に派兵することによって、世界の平和と秩序は守れると言っています。
これは日本が戦後69年掲げてきた平和主義を根本的に転換する発想です。それを安倍政権は「積極的平和主義」と呼び、自衛隊が米軍とともに海外にプレゼンスすることによって、世界の平和に貢献するのだと言っているのです。自衛隊が侵略の銃をとらない、海外で軍事行動をとらないことによって世界の平和を実現するのではなくて、逆に自衛隊が海外で軍事行動をすることによって、国際的な平和を実現するというのが安倍政権の「積極的平和主義」で、これはまさしく集団的自衛権によって米軍と共同で軍事行動をとることを宣言した言葉です。

アメリカの世界戦略、戦争政策の転換

では、それを解釈改憲でやるのはどうしてなのか。第2の点を検討しましょう。
先ほど言ったように、そもそも第1次安倍政権で明文改憲を唱えたのは、小泉政権までの解釈改憲の限界を突破するためでした。解釈改憲では軍事行動ができないということで明文改憲を唱えたはずなのに、今回の安倍政権は、再びそれを解釈でやろうという方針を掲げている。これには2つ理由があります。
1つは、アメリカの世界戦略が変わったということです。アメリカは自由な市場秩序を守るために、場合によっては武力で政権を転覆して「自由な」市場秩序を守り、拡大するという形で戦争してきました。イラクに兵を出し、アフガニスタンタリバン政権を倒し、再びイラクで戦争をした。つまりアメリカは、20年以上に渡って自由な市場秩序のために戦争を繰り返してきたわけです。
そして2つの結果が生じました。1つは、第2次世界大戦時の日本と同様、未曾有の財政破綻です。アメリカは20年以上も戦費を使い続けた結果、公務が全部止まりました。あれは共和党との対立とも言われていますが、対立の最大のポイントは財政破綻です。
もう1つは、国民の厭戦意識、反戦意識が強くなったことです。この2つの結果、オバマ政権は今までの戦争政策を転換せざるを得ない事態に直面しているのです。
第1の転換は、直接介入主義の放棄です。アメリカのこれまでの戦争政策を、基本的に私は「直接介入主義」と呼んでいます。大企業本位の世界秩序を維持するために、米軍が直接出て行って、場合によっては武力行使をしてでも維持を図るという方式です。これを転換せざるを得なくなりました。しかしだからといって、この自由な市場秩序に対するアメリカの覇権を放棄するわけにはいかない。それではどうするのか?

多国間協調・肩代わり・リバランス戦略

1つは「多国間協調主義」といって、できるだけ戦争に持ち込まないというやり方を使う。イランやシリアや北朝鮮の暴発を、ロシアや中国とも協調し巻き込んで抑え込むというやり方です。多国間協調主義でできるだけ戦争に持ち込まないということになると、同盟国とだけ協調していたのでは不十分で、ロシアや中国などとも協調しながら世界の秩序維持を図り、ある意味ではロシアや中国に、シリアや北朝鮮という国の問題も責任分担をさせることによって、できるだけ大企業本位の秩序を維持する必要が出てきます。
2つめは、自分達の人とカネを肩代わりさせる「肩代わり戦略」です。日本やドイツ、NATO、オーストラリアなどに肩代わりさせる。それによって、人もカネもアメリカの負担を軽減するという方式が出てきます。
第2の転換は、そうやって節約したカネと人を、財政再建に充てるだけではなく、この20年の戦争の中で衰退したアメリカの覇権を再建するための新しい戦略に使うということです。つまりアジア太平洋地域に重点的に軍事力もカネも使うという政策です。オバマ政権は、これを「リバランス戦略」として、アジアの中でのバランスを取り直すという政策として打ち出しているわけです、
なぜアジア太平洋かというと、今世界の中で成長しているのはアジアだけだからです。中国、インド、そしてASEAN、そこに、少し衰えていますが、韓国と日本。この成長の領域に軍事力とカネを使って、アメリカの多国籍企業がアジアに進出し、安定した覇権の再確立をするという政策を取る。これが第2の政策です。

アジア太平洋重視の「新型大国関係」

この問題でカギになるのは、アジア太平洋地域です。本当であればアメリカ一国でやりたいのですが、そうはいかない。アジア太平洋地域のリバランスをとるための最大の焦点は中国だということで、中国に対する2面的な政策が出されてくる。1つは、アジア太平洋地域で大企業が自由に活動できる市場をつくるために、中国と同盟管理をすることです。中国に北朝鮮の暴発を防がせる形で、中国と協調しながらアジア太平洋秩序を維持する。同時に中国が独自の覇権主義という形でアメリカに歯向かうような覇権を確立しようとする時には、アメリカは力で中国を包囲する。その時には日本やオーストラリア、インドネシア、フィリピンなどを動員しながら、中国の覇権主義を抑える。こういう2つの側面の政策をとることによって、アジア太平洋地域でアメリカの覇権を再確立するという戦略を取っています。中国もこれに呼応して、アジア太平洋地域の覇権を、米中が東西で分割する「新型大国関係」を提唱しています。

「アメリカの手下として軍事行動せよ」

この「肩代わり戦略」と「アジア太平洋重視戦略」のいずれからも、対日政策は大きく変わることになります。
まず「肩代わり戦略」では、日本を米軍の手下として働かせるということです。また、日本にカネを出させて、アジア太平洋地域における防衛分担をもっとさせるという点で、アメリカは日本に、人もカネも要求する。その中でポイントになるのは、カネだけでなく集団的自衛権を早く認めさせて、日米共同軍事行動でヒトの面からもできるだけ日本に分担させるという形の要請が出てきたことです。そういう意味でいうと、集団的自衛権を早く認めろというアメリカの90年以来の要求は、少し形を変えて、「共に血を流せ」ではなく「アメリカの代わりに手下として軍事行動せよ」という要求として集団的自衛権を要求しているのです。
2つめの「アジア太平洋重視戦略」では、日本のあからさまな軍事大国化は今までに増して困るため、それは抑圧しなければならないという要請が出てくる。それは何かというと、アジア太平洋地域の同盟政策を安定させる上で焦点となる中国が、一番怖れているのが日本の軍事大国化だからです。またアジア諸国も日本の軍事大国化を怖れている。特に韓国が顕著です。そうなってくると、アメリカとしては日本のあからさまな復古的軍事大国化は、アジア太平洋地域の安定を損なう意味でも、また焦点となる中国のアメリカとの合意によるアジア・太平洋の秩序を維持する上でも、どうしても抑え込まなくてはいけない。これがアメリカの大きな考え方として出てきています。

「おとなしく」共同軍事行動という

アメリカの注文は安倍政権にとって厄介

この2つを合わせると、オバマ政権の要求は、米軍の手下として早く共同軍事行動を認め、しかしそれはあからさまな明文改憲ではなく、「おとなしく」やってほしい。つまり明文改憲とかを言わずに、解釈でやってほしいと言うことになります。
これは安倍政権にとっては非常に苦しいことなんですね。というのは、安倍政権が改憲や集団的自衛権容認を国民に訴える最大のテコは、尖閣問題や中国の横暴という問題です。ところがアメリカは、中国と敵対しないで、早くやれと言うわけです。つまり安倍政権にとっては極めて厄介な注文がアメリカによって押しつけらているのです。
安倍政権が解釈改憲路線を採る理由は、それだけではありません。第1次安倍政権は明文改憲で失敗しているので、2度と同じ失敗は許されない。これも安倍政権に大きくのしかかっています。

ちゃぶ台返し解釈改憲

ここで出てくるのが、集団的自衛権の行使容認、「戦争する軍隊づくり」を徹底して解釈改憲でやるという路線です。それも今までのようなレベルの解釈改憲ではダメなので、60年続いてきた政府解釈、つまり「固有の自衛権」「自衛のための最小限度の実力」「そのための集団的自衛権行使の禁止」「海外派兵はしない」という憲法解釈の体系自体を、解釈でひっくり返すというわけです。
敢えていえば60年間で政府自身が認めてきた解釈を、ちゃぶ台返しでひっくり返すことによって、自衛隊を戦争できる軍隊にするというのが、安倍政権の今回の解釈改憲の大きなねらいだということです。
▼このインタビューは動画で視聴できます。

井上伸
国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者
月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『国公労調査時報』編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説
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転載元: mimiの日々是好日