riboni5235’s diary

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歌舞伎座『二月大歌舞伎』昼の部レポート 代々受け継がれた魂宿る仁左衛門の菅丞相『菅原伝授手習鑑』

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時平の陰謀により大宰府への流罪となった菅丞相(片岡仁左衛門)は、護送される途中に判官代輝国(中村芝翫)の計らいで伯母の覚寿(坂東玉三郎)の館に逗留していた。加茂堤から逃げた苅屋姫(片岡千之助)もまた、姉の立田の前(片岡孝太郎)により生みの母である覚寿のもとに匿われていた。菅丞相が館を発つ前の晩、苅屋姫が菅丞相に会って詫びたいと立田の前に涙ながらに訴えているところに覚寿が現れる。覚寿は菅丞相が流罪される原因となった苅屋姫を赦すことができず、妹を庇おうとする立田の前ともども杖で折檻する。すると障子の内から折檻をやめるようにという菅丞相の声が聞こえてくるが、障子を開けるとそこには菅丞相の木像しかない。この木像は覚寿の願いにより菅丞相自らが彫り上げた入魂の作だった。そこへ土師兵衛(中村歌六)と、その息子で立田の前の夫である宿禰太郎(坂東彌十郎)が菅丞相の出立の手伝いにやって来るのだが……。

『菅原伝授手習鑑 道明寺』左より菅丞相=片岡仁左衛門、覚寿=坂東玉三郎、苅屋姫=片岡千之助

『菅原伝授手習鑑 道明寺』左より菅丞相=片岡仁左衛門、覚寿=坂東玉三郎、苅屋姫=片岡千之助
玉三郎が難役と言われる覚寿を豊かな情感で見せる。表情や立ち振る舞いなど、全身隈なく意識が走っていること感じさせる凄みと、悲しみと慈愛の深い表現が心にしみる。芝翫は実直な判官代輝国をさわやかに演じ、悲運の物語における清涼剤のような役割を果たす。「加茂堤」で桜丸を演じていた勘九郎が、殺人の罪を着せられそうになる奴宅内という役を軽やかに演じ、客席を大いに沸かせる。「道明寺」では様々な登場人物の思惑が入り乱れ、この作品が人形浄瑠璃として初演された江戸時代(1746年)からどれだけ時を経ても、家族愛や忠義心、欺瞞やエゴ、そしてユーモアなど、人間の抱く思いそのものはずっと変わっていないと感じさせる。だからこそ長年上演され親しまれ続ける作品と成り得たのだろう。
「道明寺」での菅丞相は、苅屋姫との別れの哀しみの表現や、木像の菅丞相と生身の菅丞相との演じ分けが求められるなど、演じる俳優を選ぶ役だと言われる所以が集約されている。菅丞相を当たり役とした十三世亡き今、仁左衛門が確実にその芸を受け継いでいることが十二分に伝わって来て、その姿から目が離せない。限界まで研ぎ澄まされた無駄のない、“静”の芝居の極みここにあり、という圧巻の菅丞相だ。この役に必要なのは演技力だけではなく、どこまでも芸を追求する魂なのだろう。代々受け継がれてきた魂の宿った珠玉の舞台を見られたことに幸せを感じずにはいられなかった。
『二月大歌舞伎』の上演は歌舞伎座にて、26日(水)まで上演される。

今,観たい舞台です。生では見たことがありません。